ノーマライゼーション・教育ネットワーク会員通信2020春号

【代表】新井淑則   【事務局】岩井隆 〔ホームページ〕  URL:http://www.japan-normalizatio.com/ 連絡先〈 郵便 〉〒344-0041 埼玉県春日部市増富763-1 飯島気付             〈 電話 〉090―2441―0938(岩井)             〈メール〉rsj78162@nifty.com(宮城)

教育ネットとして、独自に提言を提出!

—1月24日、埼玉県教育委員会教育長へ—  去る1月24日(金)、教育ネットの事務局員の5人(新井・飯島・宮城・森谷・岩井)+リル(盲導犬)はさいた ま市の埼玉県庁第2庁舎に集まりました。約束してあった小松弥生教育長との面談に臨み、提言を提出するた めです。この提言提出の実現のために埼玉県議会の浅野目義英議員(さいたま市浦和区)にお骨折りをいただき ました。その浅野目議員と待ち合わせて4階の教育長の部屋を訪ねました。  5人が自己紹介をし、続いて宮城さんが教育ネットの来歴を簡単に話しました。そしていよいよ提言の提出 です。本会代表の新井淑則さんが教育長宛の「障害のある教職員の雇用・勤務の施策に関する埼玉県教育委員 会への提言」を手渡し、提言の趣旨を説明しました。小松教育長からも質問や意見が出され、当初の午後1時 05分から10分間の予定だったものが、倍の20分を要することになりました。  お忙しい中、時間を割いてくださった小松弥生教育長、こうした時間設定に労を取ってくださった浅野目義 英議員に感謝申し上げます。  なお「障害のある教職員の雇用・勤務の施策に関する埼玉県教育委員会への提言」は資料1として全文を 本誌p4〜10 に掲載してあります。そちらをご覧ください。また、この面談・提言提出の様子を埼玉新聞の 記者が取材し、1月27日づけの埼玉新聞の記事となりました。その記事も資料2として本誌p11 に転載し てありますので、併せてご覧ください。

私たちの事を私たち抜きで決めないで

   障害者権利条約は「私たちの事を私たち抜きで決めないで(Nothing About us without us)」を合言葉に世界 中の障害当事者が参加して作成されました。2006年に国連で採択をされ、2014年1月に日本政府が批准しました。  日本政府は、批准に至るまでに障害者差別解消法をはじめとして、国内法を整備してきました。障害者雇用 率が引き上げられたのも、そのためです。  障害者雇用水増しが発覚し、2018年に小松教育長の特命で組織された障害者雇用検証委員会と障害者雇用推 進委員会の構成委員にも、当事者である障害のある教員はいませんでした。また、2019年に出された両委員会 の最終報告書にも、障害のある教員の雇用拡大にむけての具体的方策は皆無でした。  当事者団体である教育ネットが、最終報告に対して提言するのは必然といえます。「私たちの事を私たち抜 きで決めないで(Nothing About us without us)」の精神に立ち返り、提言をしっかりと伝えなければなりま せん。そして、障害のある教員を守り、仲間を増やしていかねばなりません。

静 か に 物 申 す

黙っていたら、いいようにされちゃうよ! これまでも、これからも  岩井隆

提言そして提言提出の意義

 本誌別掲資料1の「障害のある教職員の雇用・勤務の施策に関する埼玉県教育委員会への提言」をお読みい ただけましたか? お気づきのことと思いますが、この提言の内容は直接的には埼玉県教育委員会の政策につい て書いたものではありません。  「水増し問題」の検証のために設置された第三者委員会である「障害者雇用推進委員会」が小松教育長に昨 年2月に報告した「埼玉県教育委員会における障害者雇用の推進方策について(最終報告)」 www.pref.saitama.lg.jp/e2201/suisiniinnkai/suisiniinnkai.html に書かれている提案や方向性に対して教育ネットとしての見解を提言と言う形で述べたものなのです。なぜな ら、埼玉県教育委員会の今後の障害者雇用や勤務のあり方(とりわけ2020年末に向けた雇用率達成の施策) がこの「最終報告」に基づいて進められていくとおもわれるからです。つまり本提言は、埼玉県教委の施策へ の疑問、不安、憂慮の思いを障害者雇用推進委員会の「最終報告」の提起への反論・注文・補充意見という形 にして婉曲に表したものです。  これまでの埼玉県教育委員会の障害者の雇用・勤務の施策は、極めて不充分なものでした。 ◆中途で障害を負った教職員へのサポート ◆障害者の能力・適性の適切な評価と希望などへの配慮 ◆一向に増えない障害のある教員への採用、雇用の施策 などが不十分なまま、「法定雇用率」の達成が先行して目指されていました。埼玉県教育委員会の障害者の雇 用・勤務の施策の底流にはこうした現実があり、そのひずみが象徴的に噴出したのが「水増し問題」だったと とらえています。  本提言では3つの提言(提起)でこれらの現実に対する改善策を述べています。 この3つの提言(提起)そのも のは、教育委員会が提言の内容を真摯に受け止め実現させようという意識意欲があればそれほど提言の採用・ 実現が困難であるとは考えていません。基本的には予算措置を講ずる必要はないからです。しかしながら、県 教委の施策に本提言が活かされる可能性をかんがえると、それは未知数であると言わざるを得ません。  それでも緊急的に提言を提出したのは、以下の理由からです。 ※不当・不正・不法な障害者雇用数(率)の水増しを繰り返させない ※水増しを行う意識や思考とそれを継続・温存させてきた機構にメスを入れる ※水増しを解消させるための障害者の雇用においては、場当たり的・付け焼刃的な雇用をさせない  そのためには、教育委員会のこれからの障害者雇用の有様を見守り・凝視している視点の存在が絶対に必要 です。そうした視点の存在をアピールしていく副次的な効果も射程に入れたのが、提言提出のもう1つの意義 です。

幕引きはゴメンだぜ!

 一昨年夏に発覚した「水増し問題」は、中央省庁・地方公共団体による障害者の大量採用によって一見解決 した(解決に向かっている)ように感じられます。が、果たしてそうなのでしょうか? 私たちが凝視し分析して きた埼玉県教育委員会の施策においても矛盾や不十分さが垣間見えてきます。全国の多くの地方自治体や国の 中央省庁の施策も大同小異なのではないでしょうか?障害当事者の声を聴き、それに寄りそっているとは考え られません。「水増し問題」で影響や被害を受けた当事者(団体)が声を挙げなければ、「水増し問題」などま るでなかったように幕引きが行われかねません。  教育ネットは活動の中心地である埼玉県における「水増し問題」の推移はある程度とらえています。しかし、 他の地方・都道府県の情報は寡聞にして知りえないのが、実情です。全国には「水増し問題」に憂慮する人々・ グループ・団体がそれぞれの地で声を挙げていることと思います。今後の課題はそれらの声と広汎に連携・合 流して、「水増し問題」をより良き方向に向かわせるムーブメントを創りだすことです。

資料1

埼玉県教育委員会教育長 小松弥生様 障害のある教職員の雇用・勤務の施策に関する埼玉県教育委員会への提言             2020年1月 日           ノーマライゼーション・教育ネットワーク(代表 新井淑則)

はじめに

 貴職におかれましては平素より障害のある教師の人権を尊重し働き易い条件整備にご尽力していただき深く 感謝しております。本会の会員もそのような合理的な配慮・適切な支援を受け、障害があっても教師としての 能力を活かし勤務を続けています。重ねて感謝申し上げます。  私たちノーマライゼーション・教育ネットワーク(略称=教育ネット)は、1996年の発足以来障害や慢性 疾患を持つ者が教育現場で勤務を継続するために働ける条件整備や権利擁立のためさまざまな団体や人々と 連帯して支援活動を続けてきました。

「水増し問題」の発覚

 ところが、20余年の活動を続ける中で想定だにできなかった出来事が2年前に発覚しました。日本社会に おける障害者の働く権利を保障しようとする取り組みが国の施策や法の整備によって不充分ながらも進められ てきた筈でした。それは「障害者雇用促進法」を制定し、雇用率達成を義務化して、国・地方公共団体などの 官公庁はもとより民間の企業にまで障害者の雇用促進・拡大を働きかけるものでした。しかし、その雇用率の 達成自体が大きな虚構だったのです。まず2018年夏に国の中央省庁で障害者雇用数・雇用率の水増しが発 覚しました。その水増しは国の機関にとどまらず、またたく間に多くの地方公共団体にも飛び火しました。本 会会員の多くが在住・勤務する埼玉県も例外ではなかったのです。埼玉県教育委員会においても障害者の雇用 数・雇用率の水増しが行われ、191.5人という多数の採用者の不足が判明しました。 こうした法令違反は、実質的に障害者の就労を阻むことであります。 さらには、この障害者雇用率の未達成を解消するために性急な数合わせの採用が中央省庁・地方公共団体で行 われることが予想されます。障害者理解が進まず職場の条件整備や働く環境が整わないままでの性急な採用で は、採用された障害者の継続勤務が難しくなり結果として辞めざるを得なくなることが懸念されます。これで は教育現場のノーマライゼーションが進行するどころか、絶対少数の障害のある教師が職場で孤立し声も上げ られない状況が続くことを危惧せざるを得ません。この「水増し」は、教育ネットにとってその存在基盤を揺 るがしかねない事態であると私たちはとらえています。私たちは緊急事態とも言うべき「水増し問題」を見過 ごさずに、一昨年12月20日に埼玉県教育委員会に要望書を提出し話し合いを求めました。貴職の誠意ある 対応により、昨年(2019年)1月22日に県庁衛生会館にて本会と埼玉県教育委員会の人事担当の職員の方 との話し合いの場が設定されました。その話し合いの席で、私たちは疑問や懸念を伝え、質問への回答を求め ました。それらに対して具体的な数字を示しての誠意ある回答がありました。が、一方で核心部分では「第三 者委員会である障害者雇用検証委員会と障害者雇用推進委員会が障害者の確認・把握に関する事実関係や問題 点の検証・評価をまとめているので、そのまとめを待ってほしい」という回答でした。そうした不充分な回答 のため、私たちは消化不良の思いで話し合いを終えることになりました。

2つの第三者委員会

 埼玉県教育委員会は教育ネットが話し合いを求める以前の2018年10月より第三者委員会として「障害 者雇用検証委員会」と「障害者雇用推進委員会」を設置していました。これらの第三者委員会は数回の委員会 を開催し、報告をまとめました。また、委員会を密室の話し合いとはせずに、会議の模様を一般市民にも公開 しました。私たち教育ネットも可能な限り会員で手分けして傍聴に行きました。そして、本会と埼玉県教育委 員会の話し合いのあった翌月2019年2月に2つの第三者委員会は答申を貴職に報告しました。  障害者雇用推進委員会の報告には、これまで埼玉県教育委員会が行ってきた障害者雇用拡大の施策が評価さ れ、それらの拡大・充実が謳われています。さらに新たな施策も記され、2020年末には法定雇用率達成を 目指す旨が記されています。  埼玉県教育委員会はこの障害者雇用推進委員会の報告に沿って今後の障害のある教職員の雇用・勤務の推進 を図るものと思われます。しかし私たち教育ネットは埼玉県教育委員会の姿勢・障害者雇用検証委員会と障害 者雇用推進委員会の取り組みを評価しつつも、これらの報告ならびに埼玉県教育委員会が行おうとしている施 策に対し疑問、不安、憂慮の思いを禁じ得ないのです。

3つの提言

 私たちが抱く思いと意見を障害者雇用推進委員会の報告(以下、最終報告と記す)の内容に対応させる形式で 提言として提起します。

提言1

 最終報告の「障害者雇用の取り組みを統括し、障害者のサポートや障害者を雇用する学校・課所館の支援等 を行なう専担組織を設置する」という提案に加えて、障害者雇用促進法にある「苦情処理機関」としての機能 と障害関係の総合的な窓口としての機能を併せ持つ人事担当組織に改組する。
最終報告(p6) 抜粋
 「埼玉県教育委員会では、教職員の人事を担当するセクションが、総務課(教育局の職員)、県立学校人事課 (県立学校の教職員)、小中学校人事課(市町村立小中学校の教職員)の三課に分かれており、障害者雇用につい てはそれぞれの課が個別に対応する傾向にあった。今後は障害者雇用の取り組みを統括し、障害者のサポート や障害者を雇用する学校・課所館の支援等を行う専担組織を設置することが望ましい。」  
提言の根拠
 3つの課を一つにして障害者の雇用・サポート・学校や課所館に対する支援を行う専担組織を設置すること は、障害者の雇用・勤務の施策が統一性のあるものとなることが期待できます。  しかし、これだけでは不充分であると考えます。なぜならば、これまでの埼玉県教育委員会の中途障害者へ の対応・配慮が充分に行われていなかたからです。  例えば、教師として数年・数十年勤務を続けてきた者が、疾病や怪我で障害を負い、今後の勤務や生活に不 安や絶望を抱いていました。しかし、職場での物的・心的・人的支援はないにに等しく、支援を訴える方法も ありませんでした。やむなく、職場を去った多くの者がいます。今後、このようなことがあってはなりません。  県教育委員会が目指す「専担組織」を「障害者雇用促進法」に定める「苦情処理機関」としての機能と障害 関係の総合的な窓口としての機能を併せ持つ人事担当組織に改組することを提言します。   ※障害者雇用促進法第七十四条の四「事業主は障害者である労働者から苦情の申出を受けた時は、苦情処理機 関(事業主を代表する者及び当該事業所の労働者を代表する者を構成員とする当該事業所の労働者の苦情を処 理するための機関をいう。)に対し当該苦情の処理を委ねる等その自主的な解決を図るように努めなければな らない。」

提言2

 最終報告にある支援員の配置拡大・事務集約オフィースの新規設置などの施策では、支援員の適切な人員 数・資質の向上を図り、個々の障害者の障害・特性・希望に配慮した丁寧な対応を第一の課題とする。
最終報告(P8・9) 抜粋
     「障害者の雇用拡大に伴い、サポートする支援員の配置を大幅に拡大するとともに、研修の実施などによ り支援員の資質の向上を図る。働きやすい職場の整備として○事務集約オフィースの設置 ○ICTを活用 ○勤務時間の短縮や勤務日数を少なくするなどの配慮 ○テレワークなどの検討 ○教員の民間企業での長 期研修 ○教職員や保護者、地域の方々を対象とした研修などが挙げられている。(要約)」
提言の根拠
 法定雇用率2.4パーセントを達成させるためには、埼玉県教育委員会は多くの障害者を採用することが必 要になります。その期限は2020年末までになっています。そのために今までの施策に加えて、新たな施 策・積極的な取り組みが最終報告で提案されています。  しかし、法定雇用率の達成を急ぐあまりこれらの施策・取り組みがカラ回りしてしまうことを、私たちは 憂慮しています。カラ回りし上手く機能せず失敗に終わった時のしわ寄せは採用された障害者に及ぶのです。 ようやく獲得した職業・夢を抱いて入って行った職場であったはずなのに、そこから弾き出されるように去 らざるを得ない者の受けるダメージはいかばかりでしょうか? これは杞憂ではありません。  国の中央省庁の障害者雇用率の水増しを解消するために障害者の特別選考が一昨年と昨年に緊急措置とし て行われました。が、この採用試験においても採用後の職場配置や勤務内容においても障害や障害者に無理 解で不適切な対応が見られました。これによって試験そのものを断念した人・採用後間もなくして退職した 人が現実には多数存在します。  埼玉県でも次のような事例が確認されます。「障害者採用募集の25% 法定雇用率達成に黄信号」という 見出しで以下の記事が読売新聞に掲載されました。「埼教委が2年がかりで雇用率の達成を目指している。 今年度は143人分を採用して2.17パーセントにし、来年は74人分を採用して2.4パーセントを達成す る計画。1年契約の非常勤職員は前年度よりも159人多い281人雇用することにした。しかし、昨年度 勤務していた非常勤職員122人の内今年度も契約を更新したのは91人。4月以降173人を募集したが、 応募は143人にとどまった。」(2019年6月5日読売新聞埼玉版の要約)  もちろん、この記事に書かれている「昨年度勤務していた非常勤職員122人の内今年度契約を更新しな かった者」が全て職場不適合で弾き出された訳ではないでしょう。また、「4月以降173人の募集に対し、 応募は143人にとどまった」原因も、障害者の障害・特性・希望に配慮した丁寧な対応がないと応募者に 思われただけではないでしょう。1つの要因として上記の国の中央省庁の多数の職員募集があったことが考 えられますが、職場不適合や障害者に配慮した対応がないと思われたという事例が全くなかったとは考えら れません。  こうした事態は、採用される障害者にとっても採用する省庁・地方公共団体にとっても不幸なことです。 このような事態を繰り返さぬためにも、「雇用率達成ありき」ではなく、個々の障害者の障害・特性・希望 に配慮した丁寧な対応が求められています。これも遠回りのようですが、個々の障害者の障害・特性・希望 に配慮した丁寧な対応が障害者の職場定着を促し法定雇用率を向上・達成させていく施策の中核になると考 えられます。

提言3

 教育委員会の障害者法定雇用率2.4パーセントとは別に小学校・中学校・高等学校・特別支援学校などの それぞれの学校種別の障害者雇用率の目標数値を定め、それを公開する。毎年教育委員会の雇用率発表と一 緒にその年度に達成した雇用率を公表する。
最終報告(P10) 抜粋
 「教職員の9割を占める教育職員(主に教員)の障害者雇用の推進は中長期的に対応することとなるが、障 害者を対象とした教員の募集、採用選考試験、採用後の配置等の各段階において着実な取り組みを進めてい く必要がある。」
提言の根拠
 埼玉県教育委員会が障害者特別選考枠で新規に採用している障害のある教員はここ数年は十指に満たない 数になっているというのが現実です。一方、 ここ数年での「チャレンジ雇用」や「チームぴかぴか」によ る障害者の採用は3桁の数になっています。埼玉県教委の障害者雇用の全体像を見れば、「チャレンジ雇用」 や「チームぴかぴか」による採用が、障害者の雇用数・雇用率の増加に大きく寄与してきたのは確かなこと です。この施策はそれにとどまらず特別支援学校を卒業した障害者の進路確保・拡大につながり、それらの 採用された者の民間での採用・雇用に向けてのスキル向上の働きも有しています。さらに3つ目の効果とし て、採用された障害者が適切な配属・職種・職場で能力を活かすことによって、学校現場での授業で用いる 教材・資料作成・印刷など教員の働き方の改革に寄与する力にもなっていくことが期待されています。この ようにとらえますと、「チャレンジ雇用」や「チームぴかぴか」による採用が一石二鳥どころか一石三鳥と も形容すべき効果を挙げ、教育行政にとっても大きな意味を持ちます。  2020年末までに法定雇用率達成を目標としている県教委が、元々教師になろうという障害者の数が少 なく新規採用は年間数名という障害のある教員と比して百名を超える雇用数の「チャレンジ雇用」や「チー ムぴかぴか」での採用を障害者雇用の重点に据えていくことは必然のことでしょう。  こうして「チャレンジ雇用」や「チームぴかぴか」での採用によって法定雇用率が達成すると、特別支援 学校の卒業からチームぴかぴかでの雇用(と同時にスキルの向上)そして民間への就業という特別支援学校の 卒業生の進路の流れが形成され、教育行政の中に位置づけられ定着してシステム化が図られることが予想さ れます。  しかし、このシステム化は、埼教委の小学校・中学校・高等学校で働く障害者の雇用拡大の必要性を失わ せることに結びつくのではないかと憂慮せざるを得ません。なぜなら、 教育委員会は教育に関わるとはい え行政機関ですので、法定雇用率という数値目標が達成されれば、組織の総体としてはそれ以上に障害者の 雇用を拡大していくことに意識・意欲を向けるのは難しくなります。ましてや元々採用数を伸ばしていくこ と自体が難しい障害のある教師の採用ではなおさらのことです。  こうした二律背反とも言える法定雇用率を達成しなければならないという使命感と教員の雇用も増やした いという思いのジレンマに、埼玉県教育委員会の担当職員の方は苦悩されているのではないでしょうか。  2019年5月7日のNHK総合テレビで「障害者の雇用、文部科学省が方針」というタイトルで次のよ うなニュースが流れました。「文部科学省は学校現場での対応なども含めた障害者の雇用の方針をまとめた。 非常勤で働いたあと希望に応じて常勤職員になれる仕組みの導入などを通じて障害者が働き易い環境を整備 するとしている。学校現場の対応については小学校で「学級担任」が難しい場合、「教科担任」としての採 用を検討するとしているほか、通勤しやすい学校での勤務など人事異動の配慮が必要としている。教員採用 試験で「自力で通勤」などを受験の要件としている自治体には改善を指導するとしている。」(内容要約)私 たちはこれが1つのヒントだと考えます。障害のある教師の採用においても、個々の障害者の障害・特性・ 希望に配慮した対応が必要であり、NHKニュースで放送された文科省の提起のような多様で多彩な取り組 みを模索すべきでしょう。  私たち教育ネットは、2020年末までに法定雇用率を達成しなければならないという使命感と教員の雇 用も増やしたいという思いのジレンマに対し、1つの対応策を提起します。教育委員会の法定雇用率は2.4 パーセントですが、これは教委全体で達成する数値目標です。教育委員会の職員の中には教員もいれば、事 務職員もいます。教員も小学校・中学校・高等学校・特別支援学校と学校種別に分類できます。これらの職 種や校種によって雇用されている障害者の実際の雇用率が異なっているのは自然のことです。とは言うもの の、小学校が0.44パーセント、中学校が0.8パーセント、高等学校が1.33パーセント(2018年6月 1日)というのは、あまりにも低いと言わざるを得ません。教委全体の雇用率を2.4パーセントに引き上げ るだけでは、小学校・中学校・高等学校のこの数値の上昇は望めません。教委全体の雇用率の目標数値2.4 パーセントとは別に、小学校・中学校・高等学校・特別支援学校と校種別にそれぞれ現実的な障害者雇用率 の目標数値を定めることを提案します。もちろんその雇用率達成のためには、柔軟な思考と多様な取り組み が求められます。この施策を上手に活用すれば「チャレンジ雇用」や「チームぴかぴか」での採用によって 仮に法定雇用率2.4パーセントが達成されたとしても、小学校・中学校・高等学校の障害者の雇用はそれぞ れの数値目標に向け施策を進めることにブレーキはかからないでしょう。

まとめ

 埼玉県教育委員会は、法定雇用率2.4パーセントを達成するために、ご尽力いただいていることと存じ ます。とりわけ教育公務員(教師)の雇用数を増やしていくことは一朝一夕に出来ることではありません。創 意ある取り組みや不断の努力を要することです。文部科学省・教育委員会を中心とした教育行政・現場の教 職員・障害のある教員当事者の有機的な連携が求められます。私たち教育ネットの取り組みもそうしたベク トルを形成していく一助になればという思いを抱いています。  本会20余年の積み重ね・経験と障害者雇用水増し問題への対応を通して、これからの障害のある教師の 雇用や勤務のあり方を私たちは考えてきました。本会会員の多くが在住・勤務する埼玉県における具体的な 方策を考えるものでした。  貴職におかれましては提言に記されたこれらの施策を充分に検討され、今後の障害者雇用の施策に活かさ れることを切望するものです。もちろん、本会の提言が的を射ているものとは限りません。また、既に同様 の施策が検討・計画されていることかも知れません。ならば、なおさらのこと本提言が障害のある教職員の 持てる能力を活かし勤務することに資するのであるならば、私たちの本望とするところです。

「わたしの宮沢賢治」を読んで

                       飯島光治  新井さんの三冊目の本になります。 この本は、これまでの新井さんの歩みを軸に、そのつど賢治の言葉が、救い、励みになった。新井さんの生 活とともにあった。この本は、私には読み易く-大変な歩みにかかわらず-1日で読んでしまいました。新井さ んからは、三年かかったとありました。この中に会員の宮城道雄さんが、私の恩師として書かれています。 また編集のKさんから、障害ではなく,障碍の言葉の使用について新井さんとやり取りしたとありました。 (私が本の感想を送ったことで)私はこの本をきっかけに、眠っていた賢治(主に童話)を読むことになり、 思わず賢治の世界に引き込まれました。 この本を、おすすめします。